番外編・沿岸合同公演 (承前)
- koimoiwao
- 2015年8月11日
- 読了時間: 2分
2014年1月13日
1月21日の復興地公演に向けた稽古をおこなった。
初日から3週間の舞台空白を埋める為である。
演出としては馴染んできた芝居を若干でも深めていきたいところであったし、
そうしてもっと、人形劇を好きになってほしい。
時間になった、みんな集まってくれた、さあ稽古を始めよう。
「智さん。恐竜の子ども、智さんが演じるって云ってましたよね」
「えっ」
「暮れに智さんそう云いましたよね」
それは初耳ではなかったか。
「私、智さんの人形劇見たいんですけど。智さん演じるって云ったじゃないですか」
「そうだったかなぁ、あなたが作ったキャラクターで良いんだけど」
「智さんが演じてくれれば良いと思います、やるって云いましたよ」
「・・・・」
「他のメンバーも聞いてますよ」
「はい、わたしも聞きました、智さんはやるよって云ってました」
「えっ」
「何をとぼけているのかしらね。なんですか、それは。おじいさんの演技ですか」
「いやぁ、わしは通りすがりの高齢者じゃ、何がなにやらさっぱりわか・・」
「さっぱり、何ですか。智さんは暮れに、来年は子どもを演じます、そう云いました」
「・・・・」
「私の眼を見て、返事してください。智さんはやると云ってます、そうですね」
「・・・」
「えっ、なんですか、聞こえません」
「えーと、云ったかなぁ」
「だからこうやって話してるじゃありませんか。稽古時間は過ぎていきますよ。
みんな待ってるんです、冬は集まるのがたいへんなのに。こんなことでいいのかしらね」
「・・・」
「なんですか、聞こえません」
「甘いものでもたべようか? エヘヘ…」
「ふうん、とぼけるんですね」
「・・・」
「……」
「判った、わかりました。俺の負けです。じゃあね、キャストを変更して稽古・・・
あの、えーと、ふりむいた立木が唄うときは全身でリズムにのってね」
…智さん演出だけど、公演にも参加してもらった方がいいよね。私たち決めていたんです…
後にそう聞いた。けどやんぬるかな、眼も眩む強引さであった。
さて子役が変わって稽古を終えた母親役は、ため息をつくようにこう漏らした。
「今度のわが子はやんちゃ坊主ねぇ」

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